「人生最後の誕生日」(特別養護老人ホームくぬぎ苑 三木康史)
2017年3月15日 更新
入居者Sさんの長男は大阪在住で仕事が忙しく、なかなか帰福できない。次男は癌の手術後で、当面外出できない状況であった。そんな兄弟が8月頃電話で、「おふくろも高齢だし、来年の3月の誕生日には、家族皆で集まってお祝いしよう。3月頃だったらお互い大丈夫だろう」、そう約束を交わした。
しかし2か月後の10月、嘱託医から「今月一杯命がもつかどうか」、看取り期に入ったことを告げられた。
看取りがスタートし、だんだん食事が入らなくなったSさんに対しユニットの職員は、本人の大好きな麺類や炭酸の飲み物を家族にかわって、食べたいときに食べたいだけ、飲みたいときに飲みたいだけ提供した。
そして医者も驚くようなことが起きた。1~2週間の命と言われてから約5ヵ月、なんとSさんの誕生日を家族皆でお祝いすることができたのだ。私はその時確信した。これは、医療を超えたユニットケアが起こした奇跡だと。