私の中のユニットケアのはじまり ~ミーちゃんの思い出~(介護老人福祉施設IGLナーシングホームシャレー 渡辺 正子)
2024年10月15日 更新
このお話は今から35年前の私が、介護職員として働き始めてから2年目の出来事です。
私の施設に70歳のご婦人が入居されました。
その入居者は、キューピーのお人形にたくさんの布を巻き、胸に抱えてあやすように大事に抱えていらっしゃいました。彼女の視力はほとんどゼロで、彼女の右の眼の前でスタッフが手で大きく字を書くことで、一文字ごとの理解が出来ます。後は身振り手振り、全身を使って意思伝達、意思確認をしていきます。
私から入居者に「だれ?」と書くと、かすかな声で「ミーちゃん」と答えました。彼女はベッドの上でも、中央はミーちゃんに譲り、自分は今にも落ちそうな端で寄り添って休まれています。食事をする時も、まずはミーちゃんの口にパンを運び、その上から牛乳を運び・・・。当然、キューピーのミーちゃんの口では納まらず、床へと流れ落ちていきます。ミーちゃんの食事が終わるとようやく、ゆっくりと彼女の食事が始まります。これが、毎食事時間の光景です。トイレに行く時だって、抱っこして一時も離れることはありません。
そんな彼女は、入居から一週間、一度も入浴が出来ていませんでした。私は、こう呼びかけてみました。
私 「ミーちゃん、汚れてる。かわいそう・・・・・。」
彼女「・・・・・」(ちょっと困った顔)
私 「一緒にお風呂に入れてあげませんか?お手伝いしますよ!」
その結果、身振り手振りと指文字で一緒にお風呂の準備から始めました。タライに湯を張り、バスタオルを広げ、彼女の手を取りゆっくりとタライの中に手を入れてみました。
すると、なんと彼女は、優しい笑顔で優しくミーちゃんの服を脱がされ、入浴を一緒に行うことが出来ました。
さらに、ミーちゃんの入浴が終わると、自ら隅の方で服を脱ぎ始めました。そして、自分で頭を洗い、体を洗い始め・・・、もうここからは言葉はいりませんでした。
とても貴重な経験をさせていただきました。
彼女は障害のあることが理由でしょうか。
出産後直ぐに子どもと引き離されて生活をされていたことを聞き、「一番大切なミーちゃんを私たちスタッフも大切にし、その人の人生に思いを寄せ一緒に生きること」こそ、今も昔も変わらない「良く生きる」事への支援なのでしょう。これからも、ケアの視点は変わらず「尊厳が守られ、自分らしく生きる」ユニットケアそのものだと思います。
現在、私は76歳、施設長ですが、仕事が楽しい、日々進化する介護技術、ユニットケアの視点を学んだこと、実習施設になったことで、まだ、また、ただ知りたい、学びたいことが沢山あります。35年前にこの仕事を選んでよかった、と改めて思っている。いつまで現役で楽しめるのか・・・・。
ユニットケアの取り組みから感じたこと(介護老人福祉施設IGLナーシングホームシャレー 迫川 圭琴)
2024年10月15日 更新
ユニット型特養として開設し、8年。全力で日々のことに向き合ってきました。ゆっくりと振り返ってみると、ハード面は整っていましたが、ソフト面は施設の生活リズムにご入居者が合わせてくださる場面が多かったように思います。
ケアの見直しと、さらにケアの質を上げたい、私たちの成長につなげたい思いから、1つのきっかけとしてユニットケア実地研修施設を目指すことにしました。施設長の旗振りから始まったチャレンジ。本当にできるのだろうか、みんなが1つになれるだろうか、そんな不安を私自身が感じてしまった時期もありました。しかし、振り返ってみて一言。ユニットケアに対する考え方の変化、チーム力の向上、このような財産は介護職を始めて1番大きなものとなっています。間違いなく、私のターニングポイントです。
施設で生活、ではなく「家のようにその人らしく暮らす」ことをもう一度見直したときに、言葉の使い方やユニットの環境、食卓やくつろぎの場の使い方、24シートの活用、ケア方針等、取り組むことが明確になりました。施設で働くスタッフの思いが同じ方向に向かわないと何事も取り組んでいくことは難しいと思います。「何のためにするのか」「やることでどんなことが見えてくるのか」、皆に伝えるためにはこのようなことが重要だと感じました。また、 誰かが一生懸命やる姿や幸せそうな姿をみると人の心は動きます。今回、ユニットリーダーや多職種、ユニットスタッフが必死に頑張る姿や熱心に考える場面、ご入居者が暮らしを楽しむ姿を見て、言葉を聴いて、何度も感動し私の心が動かされました。このようにチームとしてまとまってきたのだと思います。
ここからが本当のスタートです。
お一人おひとりの暮らしを知らずして、ご入居者を支えることはできません。「ご入居者を知ること」を大切にし、暮らしをもっともっと楽しんでもらいたいと思います。コロナが5類になり、行事も以前のように戻りつつありますので、ユニットの外で楽しめる機会を増やしていきたいです。